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相続放棄と民法940条(管理責任)

2019/07/17 相続放棄と民法940条(管理責任)

相続放棄は相続人が、相続による効果の帰属を全面的に拒絶する場合である。相続の放棄によって、相続人は、初めから相続人にならなかったものとみなされる(民法939条)

一般的にここまでが司法書士試験の一般的試験レベルであり、また、一般人もそのように理解している場合が多いと思います。

よって、相続放棄さえすれば、被相続人が有していた一切の権利のみならず、義務も相続によって承継することから逃れられると理解している方が、一般人のみならず、法律の専門家もそのように理解している方もおられる。しかしながら、これは大変危険なことであります。

民法には他に、相続に関して民法940があり「相続の放棄をした者は、相続の放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」とある。

相続の放棄をした者は放棄によって権利・義務を免れるから放棄後は安心であると誤解している方が多数おられます。

相続について具体的に説明いたします。司法書士の立場から相続についてわかりやすく説明いたします。

関係説明図

仮に被相続人Aが亡くなったといたします。一次相続人は妻Bと子供Cといたします。

相続物件はAが所有していた危険な老朽化したアパートといたします。司法書士の立場から相続を考える場合、誰が、誰の物件を相続するかがポイントとなります。

BとCは老朽化した無人のアパートの処分に困り、相続を放棄したとします。相続は要式行為であり自己のために相続の開始があったことを知った時から原則として、3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をしなければなりません。

BとCは相続放棄をしたので権利、義務から逃れられと思います。この場合にAの尊属である両親がAの死亡前に既に亡くなっておられたといたします。仮に、Aに弟のDさんがおられたといたします。BとCが放棄したことにより次に、DさんがAの相続人となります。

Dさんも思いがけなくBとCが相続を放棄したことを知って、遅れて、自己のために相続があったことを知った時から3か月以内に、相続放棄の申述を家庭裁判所に提出し受理されたといたします。

このようにして一次相続人B、Cの放棄、次に本来2次相続人であるAの両親の不存在、3次相続人であるDの放棄により、相続人は不存在となります(民法889条参照)。B、C、Dは何とか相続放棄の申述が家庭裁判所に受理され安心していたところ、仮に老朽化した本件アパートから出火して近隣に延焼し、隣接する住宅に延焼して被害を与えたといたします。被害は誰が弁償するのでしょうか。わが国には失火法という法律があり延焼により近隣に被害を与えても重過失がない限り責任がないという法律がありますが、法的責任がないとしても道義的責任はあり、何らかの損害の弁償をしなければ恨みをかいます。この場合に対応できる保険商品はありませんので重過失がない限り、B,C又はDは道義的責任を負うことになります。

法的に責任がある場合、一次的には管理者責任、管理者に責任がなければ所有者が責任を負うということになります(民法717条参照)。道義的責任も同様に考える必要があると思われます。

よって、B、C、Dは相続放棄により安心することはできません。民法940条では相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」とあります。よって、出火の時期により、B、CまたはDが管理者または所有者として出火につての重過失の有無により、責任または道義的責任を負うことになります。

相続放棄をしたからと言って全ての責任から解放されるわけではなく管理責任を維持しながら、早急に相続財産管理人に所有権移転と引継ぎの手続きを進める必要があるとということになります。

別の事例として次に、老朽アパートが倒壊して通りがかりの子供を死亡させたといたします。この場合は明らかに管理者責任または所有者責任を問われる事例に当たります。この場合は、保険商品の対応がありますが、いずれにしても、相続財産管理人に移転と引継ぎが完了して初めて安心が得られるということになります。

 

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